大判例

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大阪高等裁判所 昭和30年(う)579号 判決

原判決が証拠に援用している被告人前田つゆの司法巡査及び司法警察員に対する供述調書六通のうち昭和二十九年十月十七日附司法警察員に対する供述調書には、その冒頭に被疑者前田つゆは「任意左の通り供述した」旨、その末尾には「右の通録取し読み聞せたところ相違なき旨申し立て署名指印した」旨の各記載があるけれども、供述人の欄に同人の署名も押印又は指印もないことは所論のとおりであつて、記録上被告人が署名又は押印することができない事由も発見することができないから、右の供述調書は証拠能力を有しないものといわなければならない。もつとも、原審第二回公判調書の記載によれば、被告人並びに弁護人において同調書を証拠とすることに同意しているけれども、供述録取書面として一定の条件のもとに証拠能力を有するためには、供述者の署名若しくは押印のあることを要件としているから、供述録取書面としての成立要件を欠くものについては、たとえ被告人若しくは弁護人において証拠とすることに同意しても証拠能力を取得することはできないと解するべきである。然らば、原審は証拠能力のない右の供述調書の記載を事実認定の資料に供したことになるから、その訴訟手続に法令の違反があると言わなければならないが、その記載内容を検討するに、同被告人の司法警察職員に対する他の供述調書には更に詳細な供述記載があり、かつ、原判決はこれらの供述調書のほかに、同被告人の検察官に対する供述調書、公判廷における自白をはじめ合計十四種の証拠書類又は証拠物を掲記して綜合認定しており、前記違法の供述調書を除いても優に判示事実を認定し得るから、前記の瑕疵は判決に影響を及ぼさないというべきである。

次に、弁護人は、被告人前田つゆの行為は他人の手で製造された覚せい剤アンプル入りのものを紙袋に入れる包装の仕事に従事し、被告人太田繁治の行為は製造された覚せい剤の薬液をアンプルに入れる仕事に従事したものであつて、いずれも製造行為に該当せず、かつ覚せい剤製造行為について原判示の辻某、大山某と共謀したことがないから、原判決が被告人等を覚せい剤製造の共同正犯と認定したのは、事実を誤認し、法令の適用を誤つている、と主張するについて案ずるに、共同正犯とは、行為者相互間に意思の連絡すなわち共同犯行の認識があつて互に他の一方の行為を利用し全員協力して犯罪事実を実現させることをいうのであるから、数人共謀し一団となつて犯罪を遂行した場合には、共謀者一人の行為は法律上共謀者全部の行為と観察しなければならない。原判決の挙示する証拠(但し前記の昭和二十九年十月十七日附被告人前田つゆの司法警察員に対する供述調書を除く)によれば、被告人前田つゆ及びその事実上の養子である被告人太田繁治は、昭和二十九年四月初から同年九月末日まで、自宅の一室を辻某、大山某等に賃貸し、同人等の覚せい剤製造に参加し、辻及び大山は薬液の調合並びにアンプル切りを、被告人太田及び通称あきちやんという女とは薬液をアンプルに充填する仕事を、被告人前田は包装の仕事を各分担して覚せい剤の製造をして来たが、同年十月初作業場を原判示の中村彰夫方に移転し、引続き前同様の役割で覚せい剤の製造に従事し、原判示の十月十四日の夜検挙せられたものであつて、その時の残品である二百二十本について起訴せられたものであることを認め得られるから、被告人等は前記辻や大山等と共謀のうえ、本件の覚せい剤を製造したものと認定するを相当とする。弁護人は、覚せい剤取締法第二十一条に「覚せい剤製造業者は、その製造した覚せい剤を厚生省令の定めるところにより容器に納め、且つ、政府発行の証紙で封を施さなければならない」と定めてある字句を援用し、製品を容器に納める行為及び容器に納めた後の包装作業は製造に当らないと主張するけれども、被告人等が辻某や大山某等と共同正犯として覚せい剤製造の刑責を負わなければならないことは前段説示のとおりであるのみならず、同法第十五条にいわゆる「何人も覚せい剤を製造してはならない」という製造行為には、覚せい剤の原料から化学的方法により覚せい剤を製出し、又は化学的変化を伴わないで調合又は混合してこれを製剤する場合はもちろん、かゝる製品を小分けして容器に納め封緘を施し他に譲渡するに適する状態に製作する場合をも含むと解するを相当とする(最高裁判所昭和二八年一〇月二二日第一小法廷判決参照)から、いずれの点からみても、被告人等の行為は覚せい剤の製造に該当するといわなければならない。その他記録を精査しても原判決に事実誤認の点はないから、論旨は理由がない。

(裁判長判事 松本圭三 判事 山崎薫 判事 西尾貢一)

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